ケニア2―Sammy

Sammyのことが浮かんだから、2005年5月26日に僕がケニアで書いた日記を引用します。


今日、これを書きだしたのは、今夜、Sammyが僕のドミトリーに来て、なにかを僕がもらったからだ。実感として、僕はこのケニアのドミトリーで、Sammyになにかをもらった。彼をドミトリーの玄関まで見送って、ドミトリーに帰ったあと、浴室の鏡をみてぼうっとしながら、このもらったものをかきたいと強く思った。風呂に入りながらもずっと考えていた。そして、今、缶ビールを開けて、それを飲みながら書く。

Sammyと僕が出会ったのは、先週の日曜日の午前中だった。僕は、ドミトリーの玄関に部屋の椅子と蚊取り線香を持ってきて、日光浴をしながら本を読んでいた。読んでいたのは村上春樹の『Elephant Vanish』だった。僕が読みつかれて、ふと顔を上げたとき、遠くで目が合ったのが、Sammyだった。僕たちは挨拶をした。そしてSammyは、僕のところに歩いてきた。

彼は、ぱらぱら本をめくりながら僕に尋ねた。

「象に関する本を読んでるのか?」

「うん、小説だけどね。」

Sammyはビーチサンダルで、タンクトップだった。端正な顔立ちをしていて、僕の目には、若々しく映った。あとで尋ねたところ30歳で結婚もしていた。そのときの彼はどことなく時間をもてあましているように見えた。

僕は日本人の学生で、3ヶ月間ここにいることを話した。彼は、木材を使った建設業者で働いていて、今は研修でこの林業のリサーチセンターにきていて、来週の金曜日まで滞在しているといった。僕は、話し相手がほしかったから、ケニアの気候や、スポーツや、いろいろなことについて尋ねた。彼も、僕に日本についていろいろ尋ねた。そのうち、Sammyの同僚もやってきて、みんなでそんな話をしたあと、食堂に一緒に昼食を食べに行った。

そんな風に知り合って、何日か食事をともにしたりしているうちに、僕はSammyとその同僚たちと、結構親しくなった。彼らは僕にスワヒリ語を教えたりした。僕らは、よく一緒に笑った。もちろん、彼らがスワヒリ語で話し出すと、とてもついていけないが、英語だったらついていけた。彼らはよく僕を茶化したが僕は彼らと一緒にいて、楽しい気持ちになれた。

そして、今夜、Sammyは僕の部屋に来た。これからも、連絡が取れるように、僕の名刺を渡すためだった。彼は、机のうえにあった、ビールの空き缶を指差していった。

「ビール飲むのか。あんまり多くはなさそうだけど。」

「うん、ちょっとだけどね。Sammyは飲まないの?」

「ああ、宗教の関係でね。」

「みんな、お酒のまないの?」 

「飲む人もいるし飲まない人もいる。」

「そっか。僕は飲むよ。」

名刺を渡したあと、僕は、日本をたつときにもらった写真のアルバムを彼に見せた。僕はひとつひとつ写真を説明した。

 「これが、踊りのお祭りの写真で、お祭りのときは、道路の上で踊るんだよ。」

 「へー、そりゃあ、すごいな。俺も見てみたいよ。一度は日本にいきたいと思っているんだ。」

 「もし、日本に来るときがあったら、いろいろ見せてまわるよ。」

 彼は、机の前の木の椅子に腰掛けながら、オレンジ色の電気スタンドの中、アルバムをひざの上に乗せて、かがみこむようにアルバムをみていた。

 そして彼は、少し笑ったような、ものさびしい顔をしていった。

 「でも、お金がないんだ。お金がね。ケニアは貧乏なんだよ。」

 「子供はいるの?」

 「一人いる。」

 「男の子?」

「女の子だよ。3歳なんだ。」

そしてかれは続ける。

「実は今月の21日が、娘の誕生日だったんだ。だけど、ここの研修があって、帰れなかった。でも、今度の日曜日にお祝いをするよ。」

「なにか娘さんにプレゼントはあげるの?」

「靴を買おうと思ってるんだ。」

かれは、自分の足を指差して、笑いながらいう。そして、

「あとジャケットかな。」

上着を羽織るジェスチャーをしながら、彼はいった。

「きっと娘さん喜ぶね。」

「ああ。」

彼の笑顔はいい笑顔だった。


しばらくして、彼は自分のドミトリーへ帰った。

帰り際に彼はいった。

「家からEメールは送れないから、Eメールを送るにはお金を払わなくちゃならないな。」

「ケニアでは、Eメールと郵便、どっちが安いの?」

「わからない。」

「じゃあ僕が日本から先に手紙をだすよ。」

「わかった。待ってるよ。」

鈴虫が鳴いている。ここの夜は日本の秋のように涼しい。

彼は少し手を振って、闇の中に消えていった。

これがSammyと僕の話だ。

彼はいつも陽気でフレンドリーな男だ。僕の部屋に来たときもいつもどおりの陽気さとフレンドリーさを保っていた。でも、そんな彼が一瞬見せた影が、僕には影のように見えたものが、僕の中の何かを動かしたのだろう。ただ、それは暗いだけの影じゃない。人間らしい、いろんな面を持ったものだ。そして、一人部屋に帰り、浴室の鏡を見ながら、僕は彼から、何かをもらったことを実感したのだ。それをこうして書いてみたかった。

明日はSammyと仲間たちがここにいる最後の夜になる。僕は夕食の時間に、踊りを見せる約束をした。僕は踊りが好きだ。そして今、彼らに向けて踊りたい、僕の心を見てほしいと強く思う。


日記の次の日に、僕はみんなの前で踊った。
うまく踊れたかはわからない。
音が小さすぎた。 ラックトップのスピーカじゃあね。

Sammyには、まだ手紙を書いていない。
でも、もうそろそろ書けそうな気がする。

写真はSammyとその同僚たち。 左から2番目がSammy。
場所はKEFRIの食堂。 昼食はいつもここで食べていた。
みんな気のいい奴だった。
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by kkiyono-lp | 2006-04-06 04:46
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